詩日記

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2010/02/10 (水) 食う

「食う」         山田りお

牛蒡を切って醤油と酒で煮る
煮た牛蒡に唐辛子をかけて食う
庭の金柑を水と砂糖で煮る
金柑が冷めたら食う
アスパラガスを蒸す
堅いところを先に入れて穂先はちょっとだけ
蒸したアスパラガスが熱いうちに伊万里の皿に盛って
マヨネーズを少しだけつけて食う
牛蒡も金柑もアスパラガスも
すべて土から生まれ土が育てた
みんな同じ牛蒡で同じ金柑で同じアスパラガス
一本だけ特別な牛蒡はない
一個だけ偉い金柑もない
一本だけ特別美しいアスパラガスもない
人間も同じことだみんなただの人間
みんな煮て食ってやる

(All rights reserved 、2010 Rio Yamada
このHPの全ての記事は著作権法によってコピー、転載を禁止されています。)

2010/02/03 (水) Nature Boy (自然児)

「自然児」
             詩、作曲: Eden Ahbez イーデン・アーベス
             訳:山田りお
少年がいた
とても不思議な、魅せられし少年
みんなは言った
彼は遠く、遠く彷徨って行ったと
大地を超え、海を越えて
すこし、はずかしそうで
悲しい目をして
でも、彼は
とても賢かったと

そしてある日
ある魔法のような日に、彼はぼくとすれちがった
彼は、たくさんのことを話した、愚か者や王さまのこと
彼はぼくに言った
「人が学べることで
いちばんすばらしいことは
ただ愛するということ
そしてそのかわりに
愛されるということ」
________________________
調べてみたら、イーデン・アーべスはいわゆるヒッピーだったそうです。ナット・キング・コールのマネージャーに劇場で自作の「ネイチャー・ボーイ」の歌詞と楽譜を手渡し、キング・コールが歌うことになった、でも許可のため、さんざんアーべスを探して、やっと見つけたら、あの「ハリウッド」の看板の下に住んでいた。つまり本物のホームレスだったということです。
ネイチャー・ボーイは、アーべス自身だったのかもませんね。

(All rights reserved 、2010 Rio Yamada
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2010/01/24 (日) 私は生きる

お気に入りに、ピシンギ−ニャの「私は生きる」をアップしました。
これは、古いブラジルの音楽、Choro「ショーロ」です。

自分の国の音楽を大切にするブラジル人。
しかし、アンプを使ったでかい音の、うるさい音楽が世界的に人気になってきて、ショーロはブラジルでも忘れられ始めています。

大多数の人々が好むものを追いかける、それは、どこの国の人でも同じです。
でも、その結果、静かで愛らしい音楽が忘れられてゆくのは、悲しいことです。
たとえ最後の一人になっても、「いいものは、いい」と言える勇気を持ちたいと思っています。
                   山田
                       

2010/01/22 (金) 皮膚の記憶

「皮膚の記憶」         山田りお

英国の科学者の研究によれば
幼い頃の記憶の引き出しを開ける鍵は匂いだそうだ
まるでプルーストのマドレーヌみたいな話だ
日本人ならこたつでみかんの皮を剥くとか
七輪でさんまを焼く匂いとか
そういうものか
でも自分の記憶はそれとは違う気がする

たとえば夏休みに川で泳いだときの
皮膚が焦げるような陽光、むっとする湿度、そして水の冷たさ
初冬の夜の町を、雨に濡れ、行く当てもなく歩き回っていたときの
頬の氷のような冷たさ、濡れた額の感覚
手指の凍え、靴に滲みる水の冷たさ
思い出していけばきりがないけれど
そういう皮膚の記憶が今も消えない幼時の記憶だ

ひとりひとりの人間の一生の記憶を缶詰にしていくと
それはずいぶんいろいろな種類の缶詰になるだろうと思われる
その人が何をいちばん大切に思ったかによって
缶詰の中身はまったく違ったものになるんだろう
みんなの缶詰が大量生産みたいに同じだったら
それはあまりに悲しい

私が逝ったあとでだれかが古びたわたしの缶詰をみつける
缶のラベルには「皮膚の記憶」と書いてある

缶切りで缶詰を開ける
するとさまざまな季節が立ちのぼる
熱い空気、冷たい空気、乾いた空気、湿った空気
海からの風、川を渡る風、雪の上を来る風
雨の午後に庭のほうから入ってくる木々の匂いの風
あ、そう言えば匂いも缶に入っているね

つぎつぎに日本にしか存在しない四季があふれてくる
そんな豪華なメニューがぎっしりつまった
それは特選売り場でも買えないような缶詰になるんだろう

(All rights reserved 、2010 Rio Yamada
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2010/01/16 (土) 言葉

『言葉』                山田りお

わたしたち人間は
言葉をもっているから
思いを伝えることができる
愛の言葉を言うことができる
詩を書くことだってできる
そしてわたしたちは
嘘をつくことができる
不平不満を言うことができる
生まれてから死ぬまで
わたしたちは毎日
不平不満を言うことができる

動物たちは
人間のような言葉を持たないから
不平不満を言わない、言うことができない
他人のうわさばなしをしない
他人の悪口も言わない
他人の批評もしない

動物は、なにも感じていないわけではない
動物は、なにも思っていないわけではない
動物は、人間に負けないくらい
たくさんのことをを感じ、たくさんのことを思う
でも
孤独な時、悲しい時、苦しい時
病気の時、どうしようもない時
動物は、何も言わない
動物は、無言で死んでゆく

人間と動物
どちらが恵まれているんだろう
どちらが幸福なんだろう

(All rights reserved 、2010 Rio Yamada
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2010/01/11 (月) 宇宙人宣言

「宇宙人宣言」           山田りお

だんだんに人間とつきあうのが難しくなる。
人と会い、何をどう話せばいいのかわからないし、
会う人みんなが自分を変な人だと思っているような気がする
では、動物とつきあうのはどうかと言えば
どうも最近は動物の思っていることがわかるようになってきて
それもまたかなり面倒なことでもある

人間は動物の一種であって、鳥や獣や爬虫類、昆虫、
人間はそのなかまのひとつにすぎない
宇宙人はいるかという質問があるが、宇宙人はいる。
なぜならわたしたちが宇宙人そのものだから。
地球は宇宙の中にある。わたしたちは、だから宇宙に住んでいる。
宇宙に住んでいる人だから、わたしたちは間違いなく宇宙人だ。
まことに間然とするところがない。疑いの余地がない。

わたしたち宇宙人は
この宇宙に生まれ、この星で育ち、
ここで雨にぬれ、風に吹かれ、雪に凍え
空を見上げ、海を眺め、めぐってくる四季を見送る
ほかの星に住む生物に比べると、たぶん
わたしたち地球に住む生物はみんな
ずいぶんと贅沢な生を生きているように思われる
お金や物質的な意味ではなく
豊かな生を生きているんだと思う

でもたとえば
生まれた国とか出身地とか
学歴とか職業とか目の色とか肌の色とか宗教とか
そういうつまらないことで争ったり殺しあったり
嫉妬しあったり煩うことはつまらない
そんなことよりわたしたち宇宙人は
この星で過ごすことのできる短い貴重な時間を
十分に楽しむべきではないか

(All rights reserved 、2010 Rio Yamada
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2009/12/03 (木) 「昆虫」 再録

■2004/12/16 (木) 昆虫

『昆虫』
                         山田 りお

わたしは、昆虫になりたい
本能という神によってプログラムされ入力された手順に従って
考えることなく、しかし間違いなく設計図のままに行動し
孵化し、脱皮し、変態し、食い、交尾し、繁殖し
短い生をまっすぐに生きて確実に死んでゆく
そういう昆虫になりたい

朝露に濡れた草むらに住むセスジツユムシでもいい
ルビーやエメラルドのブローチのようなハンミョウもいい
水辺の妖精のようなクロイトトンボも
青い空をその体に写し取ったようなヤマトシジミもいい
金色と緑に輝くコガネムシでもいい

昆虫はあまり頭は良くないから
明日の生活の心配で眠れない夜を過ごすこともなく
死への恐怖をながながと想像して苦しむこともない
まわりの虫たちが自分をどう思っているかなど考えたこともなく
ただ、愚かに、今日を生きる

昆虫は過去の記憶をたどることもないから
失敗や失望や裏切りや恨みを疲れ果てた牛のように
何度も何度も胃から吐き戻してまた噛み砕き味わうこともなく
誰が良い虫で正しく、誰が悪い虫で間違っているかなどわからない
餌になる虫が来れば殺して、食う。ただ、生きるために。

短い一生をすこしも疑うことも迷うこともなく
後悔も不満も嫉妬も優越感も成功も失敗もなく
愚直に、しかし全力で、まっすぐに
あっという間に走り抜ける
あの昆虫になれたら。

(All rights reserved 、2004Rio Yamada
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2009/11/16 (月) 形見

「形見」             山田りお

リトル東京には日本人があつまる
多くは高齢の移民の人たち
いくつかの古びた食堂があるなかで
そういう高齢の日系人のために
400円で定食を出している店があって
ぼくはその店で昼食をとっていた
となりのテーブルで定食を待っているおばあさんが
青い紙でなにかを折っているのを見ていると
それはだんだんに出来上がってきて
青い蟹であることがわかったから
「ああ蟹だ」とぼくは言った
そこでおばあさんとぼくは
二人顔を見合わせ笑った
定食がきてそれを食べ番茶をのみ
立ち上がろうとすると
となりのおばあさんが笑いながら
あの青い蟹の折り紙を
ぼくの手に握らせてくれた
お礼を言って蟹を胸のポケットに入れ
もう二度と会わないかもしれない人に
お辞儀をしてから店を出た
胸のポケットの中には青い蟹がいて
胸の中にはおばあさんがいる
青い蟹は形見のようだと思った

(All rights reserved 、2009Rio Yamada
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2009/08/30 (日) 気高さ

「気高さ」
            ンゴドゥップ・パルジョル(チベット)山田りお訳

森の中をさまよっていた
自然の
静寂を呼吸しながら
私の心は年老いた太い木に奪われた
そこにはなにか
私を彼に引き寄せたものがあった
おそらくそれは彼の高貴さ
友もなく
孤独だった一生のあいだ
いつも静かでいることができた
その忍耐力だ

(All rights reserved 、2009Rio Yamada
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2009/08/22 (土) 私の世界は今日

「わたしの世界は今日」  パウリーニョ・ダ・ヴィオラ(詩・ブラジル)
             山田リオ(訳) 作曲:ウイルソン・バチスタ

わたしはこんなふうだから。こんなじぶんが好きなのだから
わたしはこんなふうだから。こんなじぶんが好きなのだから
わたしの世界は今日だから。もう明日(あした)には存在しない
わたしはこんなふうだから。ある日、こんなふうに死ぬ
その時、わたしは後悔も、重い偽善も、持たずに行こう
わたしは羽があるのだから、大地にひれ伏すこともなく
地位やお金を得るために、自分をあざむくこともない
巨大な軍に参加する、そんな愚行もしないだろう
だって、わたしは知っている
わたしの眠る、棺(ひつぎ)の中に
花よりほかに、何一つ、ありはしないということを
わたしはこんなふうだから。こんなじぶんが好きなのだから

(All rights reserved 、2009Rio Yamada
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Meu Mundo É Hoje           Paulinho da Viola
         Composição: Wilson Batista

Eu sou assim, quem quiser gostar de mim eu sou assim.
Eu sou assim, quem quiser gostar de mim eu sou assim.
Meu mundo é hoje não existe amanhã pra mim
Eu sou assim, assim morrerei um dia.
Não levarei arrependimentos nem o peso da hipocrisia.
Tenho pena daqueles que se agacham até o chão
Enganando a si mesmo por dinheiro ou posição
Nunca tomei parte desse enorme batalhão,
Pois sei que além de flores, nada mais vai no caixão.
Eu sou assim, quem quiser gostar de mim eu sou assim.

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