顔面加工日記

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さるさる日記

2004/02/13 (金) 嗄声

 早いのである。
 気が付くと2月ももう半ば。この時期は就職活動の女の子達の撮
影に追われ、その上、予約の遅い常連さんから脅迫されてキャパシ
ティー以上の撮影を入れる過酷な日々が続いているのである。
 かてて加えて、娘がどこかから拾ってきた風邪を、口移しで食べ
させてくれるという彼女の強力な誘惑に負け、その唇に銜えたクッ
キーとともに頂戴し、すっかり喉をやられてしまった。
「てな訳で声が出ないんだ」
掠れた声の理由を説明する僕をモデル嬢はおもしろそうな顔で見下
ろし、「親バカ」と評した後、「でも」と少し声を顰めて続ける。
「これはこれで何かいい感じなんじゃない?試しに『ケイ、今日も
綺麗だよ』って言ってみて!」
 彼女は目を閉じ、僕は少し背伸びをして耳許で掠れた声で囁く。
「ケイ、今日も綺麗だよ」
「いやん!私この声の方が好きかも!うん、こっちの方が好いよ。
このままにしようよ」
「できるか!」と少し大きな声を出したので咳き込む。彼女は「あ
らあら」と言いながら僕の背をなで、
「おとっつぁん、大丈夫?お粥ができたわよ」
「…」
「おいおい、『いつも済まないねえ。おっかさんさえ生きていてく
れたら』でしょう?」
「声のでない人間に小芝居を強要するな!」
「ちぇっ、乗りが悪いなあ。大丈夫、撮影?」
「む、無理矢理、割込んでおいて〜」
「『それは言わない約束でしょ』わはは、繋がった繋がった!」
「…。兎に角、撮影しよう。こんな声だから今日は褒めないからな。
お前もプロなんだから、自力で好い顔しろよな」
「え〜、無理だよ〜。無口が許されるのは男前のカメラマンだけだ
よ、Hiroさん!」
「…」
 だから僕の声はいっこうに治らないのである。
 嗄れ声で、デジタル嘘つきは続く。

2004/01/29 (木) 酸欠

 ○△□×なのである。
 毎日毎日リクルートスーツとレオタードの撮影に追われている。
前者は就職活動の女の子達で後者はミュージカル系の劇団のオー
ディション。その合間に仕事を貰っているレースクイーンやイベコ
ンの事務所が全身写真を全て水着で統一したい!という社長の暴走、
もとい、英断で、季節外れの水着撮影等もこなしているのである。
「あら、私も今の内に撮っておいた方が好いかしら、水着?」
撮ったばかりの水着写真を眺め、常連のナレーターさんが僕の顔を
覗き込みながら聞く。
「ああ、その〜、惚けてるんだよね?ここは突っ込むところなんだ
よね?」
「いやいやいやいや!『そうだね〜』とか『まだまだ大丈夫!』って
答えるところでしょ!」
「なんでやねん!」と言いながら彼女の肩口に軽く手を当て、「あっ
てるよね?」と尋ねる。
「いやいや、あってないでしょ?『わ〜、是非撮りたいなあ』って
言えないわけ?そんなに嫌、私の水着?」
「分った!ここで、『そうだね〜』だね?」
「おい!本気で嫌がってるだろ?」
「今朝、通勤途中の電柱にさあ」
「はあ?」
「妙に尻尾の長い綺麗な緑の鳥がとまっててね」
「???」
「よく見るとこれがでかいインコなんだよ!」
「だから?」
「オージービーフって美味しいのかなあ?」
「なんとか誤魔化そうとしてる?ねえ?」
「俺が夕焼けだった頃〜、弟は小焼だった」
「ちょっと!」
「お袋は霜焼けで〜、おやじは胸焼け」
彼女の手が僕の胸ぐらを掴み、言葉を遮る。
「わかるかな〜?ってか!わかんねえよ!」
「ええ、ですから」と言いながら彼女の手に手の平を重ねる。
「そういうリアクションをとれる年代の方の水着撮影はお断りして
おります」
「…」
力を失い、彼女の手は僕の胸から落ちる。が、その手はすぐに力を
取り戻し、今度は僕の首に戻った。
「死ね!」という言葉とともに徐々に絞める力が増して行く。
 もう少しで本当に夕焼けになってしまうところだった。
 酸欠で、デジタル嘘つきは続く。

2004/01/15 (木) 懺悔

 そう、残っていたのである。
 いよいよ本格的になりつつある就職活動の女の子達の撮影の合間
に、常連の風俗のお姉さんの撮影。
「待っていた。待っていたぞ〜!」
いつもと違い熱い歓迎の言葉で彼女を迎え入れる。
「あれれれ?どうしたの?なんだ〜、やっぱり私のこと好きだった
の?ちょっと久しぶりだから寂しかった?」
「あ、いや、ここんとこリクルートスーツの撮影が多くて、飽きて
たから好い気分転換だと思って〜」
「嫌い!やっぱりあんたなんか大嫌い!」
「ええ?俺はこんなに君を愛してるのに?」
「嘘でしょ?」
「はい。それが仕事ですから」
「…」
「それより、今日はどんな風に撮る?衣装はどんなのもって来た?」
「う〜ん、物凄く出しにくいんだけど〜」
言いながら彼女はいかにもスーツが入っているケースのファスナー
を降ろす。
「何考えてんだお前?」
そこに現れたのはいかにもと言った感じのリクルートスーツである。
「ああ、ほら、電話で今これで忙しいって言ってたでしょ?それで
思い付いたんだけど、なんかこう、清純でフレッシュな感じだから、
逆にHになるかなと〜。それにほら、安心して、ストッキングとガー
ターも持って来てるし」
「安心できるか!」
それでも他に衣装の持ち合わせもないので、2人で絵創りに取り掛
かる。ポーズだけではだらけたリクルーターにしか見えないので、
座りのポーズでストッキングを破り、ブラウスの胸元をはだけ、撮
影する。
「いやん!良くない?凄〜く背徳な感じがしない?」
「する。でもなんでだろう?このかつて感じたことのない良心の呵
責は?」
「それだけ傑作って事よ!いやん!私H!私可愛い!」
「露出は少ないのに著しく公序良俗を乱しているような〜」
「乱して乱して〜!」
「…」
彼女はふいに僕の肩に手を置き、「Hiroさん」と真摯な声で呼び掛
ける。
「まだ残ってたんだね?良心。ウケケケケ!」
ほっぺたの肉をかなり強めに掴んでやったのだが、奴の高笑いはお
さまらなかった。
 すり減った良心に入った罅を絆創膏で補修しながら、デジタル嘘
つきは続く。

2004/01/13 (火) 星人

 祝、成人なのである。
「賀正〜!」
と威勢のいいかけ声とともに、晴れ着姿には明らかに過ぎる大股で
彼女はスタジオに入って来る。
「はいはい。着物なんだからもうちょっとお淑やかに歩け。お前た
だでさえでかいんだから」
「綺麗?ねえ?綺麗?」
やはり過剰なアクションで振袖の袂を返しながら彼女は尋ねる。
「ああ、綺麗綺麗」
「私案外行けてない?こんなに似合うとは自分でも思わなかったよ」
「はいはい」
「何よ!テンション上げて行こうよ!あ、そうだ!これ聞いたら絶
対テンション上がるよ、聞きたい?」
「聞きたくない」
主張はあっさり無視される。
「うっしっしっし。鼻血出すなよ〜、私、今、ノーパン!キャ〜!
どう?どうよ?」
「寒くないか?」
「え?ああ、ちょっとすーすーするかも」
「風邪ひくなよ」
「…。え〜っと、もうちょっと興奮してくれてもよくない?」
「ふん、今時ノーパンくらいで興奮するのは財務省の官僚くらいさ」
「そうなの?」
「大人はそれくらいじゃ〜」
「ふ〜ん、ノーパンで興奮しなくなると大人?」
「そう!まあ、違いはそれくらいだな。ところで、誰にそそのかさ
れてノーパンなんだ?」
「ママ!」
「やっぱり」
彼女のママは僕と殆ど同じ歳でこれが実にその〜、なんなのである。
「ねえ〜、聞いて聞いて!」と娘よりも高い声で叫びながらドアを
開け話題の主が飛び込んで来る。
「今そこでキャッチのお兄さんに成人式?って聞かれちゃった〜!」
「何で振袖なんだよ?」
彼女は僕の問いに答えず、逆に「似合う?綺麗?まだ行けてる?」
と尋ねる。
「逝けてる逝けてる。冥王星の向う迄逝けてる」
「本当?綺麗に撮ってね」
「ママ!主役は私だからね!」
「わ、解ってるわよ」
「本当に解ってるんだろうな?」
問いつめる僕を睨みながら彼女は少し得意気に告げる。
「これ聞いたら、私の撮影にも気合入るわよ!わたし今ね〜、」
「さあ、さっさと撮るぞ、ノーパン母娘」
「あれ?あれあれ?」
成人式は思い切って40才くらいに引き上げてはどうだろうか?等
と思いつつ、デジタル嘘つきは続く。

2004/01/08 (木) 珍事

 やっぱり天然なのである。
 学生さん、バレリーナ、ダンサーと皆それぞれに美しく、随分と
楽に1日を過させてもらったと、大まかにメッカの方角を向いて、
アラーと、やっぱり大体同じ方角だろうからそのまま仏陀とキリス
トにも感謝の祈りを捧げているところで、スタジオのチャイムが鳴
る。
 夜もすっかり深けた時間でいったい誰がと不信に思いながらドア
のスコープを覗くと、タレント志望でつい最近大手の事務所から声
の掛かった女の子が立っている。今まさに帰ろうとしていたところ
だったので、無駄な抵抗とは知りつつ、インターフィンの受話器を
取り、
『ただいま留守にしております。お名前と御用件をどうぞ』
と言ってみる。
 スコープ越しにどんな反応をするかわくわくしながら見つめてい
ると、あろうことか彼女は小さく溜息を吐いてドアに背を向ける。
「おいおい!そんなわけねえだろ!」
慌ててドアを開けそう叫ぶ僕を、少し驚いた表情で見つめながら、
彼女は「あ、居たんだ」と呟く。
「全く惚け甲斐のない奴だ!さっさと入れ、天然!」
「天然じゃないもん」と膨れっ面で言いながら彼女はスタジオに入
る。
「で、どっちか決めたのか?」
「まだ。どっちも急いで決めなくて好いみたいだし」
彼女は殆ど同時期に2つの事務所から声が掛かり、迷っていると今
年の年賀状に書いて寄越していたのである。
「まあじっくり考えろ。ただ、熱心に誘ってくれる方を選んだ方が
俺は好いと思うぞ」
「う…ん」
「何だ?その話じゃないのか?何だ?なんか凹んでるじゃないか?」
「実は財布落としちゃって〜」
「…。天然!」
「お母さんに電話したんだけど携帯に出ないし」
余程心細かったのであろう。大きな目に涙が盛り上がって来る。
「はいはい、もう大丈夫!クレジットカードとか入ってるのか?」
「入ってない」
「じゃあ電車賃くらい俺が貸してやるから。それで解決だ。だろ?
泣かなくていい」
言いながら財布から千円札を1枚取り出し、手渡す。何故だか戸惑っ
た表情を浮かべるので「足りないか?」と尋ねると、彼女は笑顔で
首を振りながら答える。
「600円しか入ってなかったのに千円に増えた!」
「…」
 明日からはゾロアスターとヒンドゥーの神様にも祈った方がいい
だろうかなどと考えつつ、デジタル嘘つきは続く。

2004/01/07 (水) 威勢

 ガッツなのである。
 早稲田の女の子を2人続けて撮影した後、ダンサーさんの撮影。
以前から撮影させてもらっているダンサーさんの友達で、紹介者も
一緒にやって来た。
「ねえ、聴いた?聴いてくれた?」
熱に浮かれた目で紹介者の彼女が僕に尋ねる。
 彼女が尋ねているのは、彼女が受けたオーディションで有名な若
手の演出家に『練習しなさい。今は未だ君を使おうとは思わないけ
れど、君には何かがある』てなことを言われたという話で、僕は彼
女の友達の何人かからその話を聞かされている。
「ああ、希望に満ちた好い話だ!やる気が出ただろう?」
「うん!オーディションには落とされてるんだけど、嬉しかった!」
「わざわざそんな声をかけるくらいなんだから、お前さん、好い素
材なんだよ。自信を持って好いと思うぞ」
「うん。でも冷静になって考えると、皆に言ってるのかもとか…」
「そんなことはないと思うぞ。他にそんな話は聴かないし。でもも
し、皆にそう言ってるとしたら、好きだなあ、そういう奴」
「そう?」
「ああ!夢を売るのが商売じゃないか。それをオーディションを受
ける子達に迄徹底するなんて、気持ちが好い!」
「やっぱりそうなのかなあ?」
彼女の表情が曇るので慌てて否定する。
「いやいや、奴もそんなに暇じゃないだろうから、皆って事はない
よ!」
「もう一つ気になることがあるのよ」
曇りのまま彼女。
「『君には何かがある』って言いながら見てたのは、私じゃなくて
プロフィールの写真だったりするのよね〜」
「さすがは違いの解る男だ!舞台は見たことないけどすっかりファ
ンになったよ」
「???」
「ああ、いや、いずれにしてもそれだけお前さんが素材として優れ
てるって事さ!それに結果オーライじゃなえか!」
「そうかなあ?」
「そうさ!自信を持て!」
少し彼女の表情が明るくなる。そこへ今日撮影する友人がニコニコ
と割込む。
「私の写真も負けないようにガンガンやっちゃって下さいね!」
笑顔と再び曇った表情を見比べながら、追い込まれた僕は普段なら
決して口にしない科白に縋る。
「オ、オッケー牧場!」
スタジオの体感温度が2度程下がった。
 失われた体温を取り戻す為に皆で背骨を震わせながら、デジタル
嘘つきは続く。

2004/01/06 (火) 初春

 なにはともあれ、目出度いのである。
「1月は正月で酒が飲めるぞ〜♪」と歌いながら本当に酒臭い息を
吐きながらがずかずかと入って来るモデル嬢の撮影が初仕事。
 こんな風に始まる1年の先行きを想像し、額に手をやる僕に向か
い彼女は小さな声で尋ねる。
「あらあら。Hiroさんも二日酔い?」
「『も』ってことはお前も?」
僕も小声で尋ねる。
「うん!でも安心して!迎え酒でもう絶好調だから!ぎゃはははは」
僕は再び額に手を添える。
「あ、ごめん!声響いた?」とまた小声で彼女。
「響かないよ!そもそも二日酔いじゃねえよ!」
「ええ〜、そうなの?」
「何でちょっと残念そうなんだよ?だいたい二日酔いで撮影に来る
なよ!」
「何よ!1年を綺麗な仕事で始めさせてあげようっていう私の好意
が解らないの!」
首を伸して彼女の後ろを覗き込む。
「何探してんの?」
「綺麗」
「…」
「と好意」
「…」
「あ、そうそう。明けまして御目出度うございます」
「お、おめでとうございます」
「いやあ、相変わらず今年もお綺麗ですね〜。年の初めからこんな
美女と一緒に仕事させてもらえるなんて、まさに冥利!いやあ、今
年はええ年になりそうやな〜!」
「ど、どうしたのよ急に?」
「つき初めやがな」
「つき初め?何の?」
「嘘の」
彼女はボディーブローの突き初めをし、僕は体を2つに折初めした。
 多分今年もこんな風に、デジタル嘘つきは、続く、続く。

2003/12/26 (金) 口上

 仕事収めなのである。
 早いもので今年も残すところ後僅か。僕の仕事も年内は今日をもっ
てお仕舞い。
 ということで、すっかり日記ではなく週記くらいになってしまって
いるこの日記も今年はこれにて終了。
 気紛れな日記をそれでも読みに来ていただいた皆様と、写真を撮り
にスタジオを訪れていただいたお客さん達に感謝しつつ&皆様の新し
い年が、希望と幸福と平和と美しい嘘に満ちたものであることを祈り
つつ、

顔面加工人
Hiro
1年分の嘘の終りに。

 そうそう、勿論来年も、デジタル嘘つきは続く。

2003/12/25 (木) 聖夜

 クリスマスなのである。
 フリー・アナウンサーさんがこの時期になって年賀状の原稿を受
け取りに来る。チャイムが鳴ってドアを開けると大きな紙袋を抱え、
てっぺんに星の付いた赤い三角の帽子を冠った34才が叫ぶ。
「メリー・クリスマ〜ス!」
「間に合ってます」と平静な声で応えドアを閉める。
「開けろ〜!」と叫びながらドアをドンドン叩くので、仕方なく閉
めたばかりのドアを開く。
「メリークリスマス!」
今度は僕を睨み付けながらドスの効いた声で。
「はいはい、メリー・クリスマス」
ドアの隙間に捩じ込むように体を入れながら彼女は叫ぶ。
「クリスマスよ、ねえ?もっとテンション上げなさいよ!」
 僕はポケットからハンカチを取り出して目頭を押さえる。
「な、何よ?」
「その無理矢理上げたテンションが、独り暮しの冷えきったマンショ
ンに帰り着いた途端、一気に下がって、あまつさえ、そのテンショ
ンで張り詰めていた顔の皮膚迄もが少し下がってしまう様子を想像
したら涙が…」
「テ、テンションはともかく皮膚は下がらないわよ!」
「うんうんうん」と彼女の手を取りながら西田敏行の顔で頷く。
「キッー!」と叫ぶ彼女を「そう言えば来年は猿歳だね」と誤魔化
しながら創ってあった年賀状の原稿を手渡す。
 ハガキサイズの自分の顔を暫く眺め、彼女は真剣な顔で僕に尋ね
る。
「ねえ?私って駄目?行けてない?」
「ふん」と一つ鼻を鳴らしてから答える。
「お前さんが美人でなければ、世の中の97%は不美人だよ。安心
しろ。どうみても20代だし、あからさまに美人だ」
「じゃあなんで今年も私は独りなわけ?」
「美人な上に賢そうだからな。並みの男には近寄り難いんだよ。綺
麗すぎる華は摘みにくい」
もっと言って!と彼女の目が促す。
「だからお願いだ。一時の孤独に負けず、凛と咲き誇っていてくれ。
我々男の夢の為に」
「いや、まあ、そう?えっへっへ」
「これを持って君へのクリスマスプレゼントとさせていただきます」
唇を全く動かさず小さな声で。
「え?何か言った?」
「メリー・クリスマス」
「ああ、うん、メリー・クリスマス!」
 今宵は少し大盤振舞いで、デジタル嘘つきは続く。

2003/12/19 (金) 流言

 人の顔を見るなりなのである。
「うっしっしっしっしっし」
「なるほど。よく分った、分ったから話さなくていい」
「いや、それがね」
僕の言葉は全く無視され、彼女の笑いは深まる。
「お前、ドラエモンが静ちゃんのお風呂を覗く時の目をしてるぞ」
「あら、そう?いや〜」
笑顔は深まるばかりである。僕は溜息とともに天を仰ぐ。
「いたしかたない。聞こう。さあ、惚気ろ」
「嫌だ!惚気るなんて!そんなつもりじゃないのよ。私はあくまで
も撮って貰った写真の成果の報告に〜」
「微力ながらお客様のお幸せに幾分かでも貢献できて幸いです。
中身がばれて、逃げられた時にはより一層の嘘を注ぎ込みますので
是非又御利用下さい。それではごきげんよう!」
「聴けよ!」
声とともに胸ぐらを掴まれる。
「…はい」
「初めはね、農家だって聞いて『え〜!』って感じだったの。でも
彼はサラリーマンだし、駐車場とマンションもやってて〜」
彼女の呼吸が荒くなって行く。
「乗ってる車はポルシェだったりしちゃうの!きゃ〜!」
「涎涎」と言って彼女の口元を指差す、彼女は「え?」と言いなが
ら反射的に口元を拭う。
「出てねえよ!」
凄む彼女から身を引き、「鍍金鍍金!」
「で、出てませんわ!」
「禿げやすい鍍金だなあ」
そう言って彼女の反撃に身構えていたのだが、急に彼女のテンショ
ンが下がる。
「そう、ただ問題はそこなのよ」
「おいおい!大丈夫だよ。お前さんスッチーが勤まってるんだから、
心配することはないだろう」
「そうじゃないの。禿げてるの」
「???」
「彼、禿げてるの」
我慢はしたのである。たが、しきれずに吹出してしまう。
「笑い事じゃないでしょ!絶対同僚の子達にお金目当てって言われ
ちゃう!」
『え?違うの?』という素直な疑問は飲込む。
「金はあるんだから、良いの作って被せればいいじゃん」
「本人にその気がないんだもん。ああ、神様って意地悪!」
彼女は胸の前で手を組みそう言いながら天を仰ぐ。僕はその動作を
真似、「神様、ありがとう」と呟く。
 彼女はふいに手を伸し僕の髪を鷲掴み、引っ張る。
「ちぇっ!本物か」
痛みに耐えながら、『もしもこの舟で〜♪』と歌ってみた。
「え?何?なんで?」
答えず、『あなたは、も〜う、忘れたかしら〜♪』と更に歌いなが
ら、デジタル嘘つきは続く。

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